扁桃は、以前には分泌腺と考えられていて扁桃腺と呼ばれていましたが、本体はリンパ組織であり、正しくは「腺」を除いて、扁桃と呼称します。扁桃組織はたくさんありますが、最大のものが、口蓋垂(いわゆるのどちんこ)の左右に1個ずつ計2個存在する口蓋扁桃です。開口すると見ることができます。この口蓋扁桃を摘出する手術が口蓋扁桃摘出術であり、略して扁摘と呼びます。  扁摘は、以前は局所麻酔で行われていましたが、現在は、気道(呼吸するスペース)をチューブで確保して全身麻酔で行う場合の方が多くなっています。全身麻酔で行うと、手術中は意識も痛みもありません。手術操作は口からのみ行いますので、顔や首に切開が入ることもありません。入院期間は施設によって異なりますが、通常は数日から10日ぐらいです。

扁摘は、20世紀前半には過剰なほど施行されていましたが、現在は適応がある程度定められ、手術件数は減少してきています。しかし、現在でも耳鼻咽喉科で最も施行されている手術の1つです。  適応年齢は、通常4〜5歳以上ですが、睡眠時無呼吸症候群などで適応がある場合は、もっと低年齢でも扁摘を行うことがあります。口蓋扁桃は免疫(病原菌やウイルスなどが身体に入っても、病気にかかりにくい状態にあること)を担当する臓器ですが、成人と同様に小児でも、免疫機能は扁摘前後でほとんど差がないという報告が多くあります。幼児期になると他の扁桃組織が十分発達しており、扁摘を行っても代償されるからと考えられています。  
一般的に、次のような場合が扁摘の手術適応とされています。

1) ある時期に頻回に急性炎症症状(発熱、咽頭痛など)を反復する扁桃炎を、習慣性扁桃炎または反復性扁桃炎と呼びます。日本では、年3〜4回以上の習慣性扁桃炎を適応とすることが多いようです。
2) 扁桃が原病巣で、それ自体はほとんど無症状ですが、扁桃から離れた臓器に器質的または機能的二次疾患をひき起こす病像を、扁桃病巣感染症(病巣性扁桃炎)と呼びます。病巣性扁桃炎の場合も適応となります。二次疾患としては、掌蹠膿疱症や尋常性乾癬などの皮膚疾患、IgA腎症や急性腎炎などの腎疾患、胸肋鎖骨過形成症や慢性関節リウマチなどの骨関節疾患などがあります。
3) 口蓋扁桃の活動・機能は、4〜5歳から16〜19歳までの時期に最高となり、扁桃の肥大もピークとなりますが、20歳をすぎると退縮していきます。このような生理的範囲を逸脱した肥大を、高度扁桃肥大ないしは病的扁桃肥大と呼びます。高度の扁桃肥大によって呼吸障害や摂食障害などの症状を認める場合も適応となります。呼吸障害は、気道が狭くなって睡眠時に無呼吸がおこったり、胸郭の発育が障害され、肺や心臓に異常をきたすような場合です。摂食障害は、食事に時間がかかるため、精神身体的に成長障害をきたすような場合です。  
4) その他、抗生物質投与などの保存的治療が無効な、慢性の痛み・微熱・口臭を有する慢性扁桃炎の場合、口蓋扁桃ばかりでなく扁桃周囲炎をおこし、膿瘍(うみが組織内部にたまった状態)を形成したような場合、口蓋扁桃の腫瘍が疑われるような場合なども適応となります。

扁摘は、扁桃周囲膿瘍のような特殊な場合を除けば緊急を要することはなく、全身状態が良好な時期に施行すべきです。主に、次のような場合には、扁摘を行ってはいけないとされています。

1) コントロールができていなくて、麻酔や手術に耐えられないと考えられる基礎疾患(高血圧、動脈硬化症、糖尿病、心疾患など)がある場合。
2) 血友病、紫斑病、白血病などの血液疾患がベースにあって、出血が止まりにくい場合。
3) 麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、百日咳などの伝染性疾患に罹患した時。
4) 結核、特にツベルクリン反応陽転者で、1年以内の場合。
5) 急性上気道炎(はなかぜ、のどかぜなど)で、発熱しているような時。
6) 妊娠中および、できれば月経中も避けた方がよいといわれています。

稀におこる扁摘後の合併症としては、主に、次のようなものがあります。

1) 通常は、術創を縫合しない開放創手術であるため、手術後出血をきたすことがあります。24時間以内と、治癒過程で創面にできた白苔が取れ始める1週間後におこりやすいです。
2) 手術後の感染。
3) 手術操作による神経損傷や、開口器(扁摘しやすいように口を大きく開く器械)による舌の圧迫などによって、味覚障害をきたすことがあります。
4) 口蓋扁桃の大きい症例では、鼻に通った声に変化することがあります。形態が変わることによって、共鳴構造が変化する場合があります。
5) 扁摘後、残りのリンパ組織が代償性に肥大することによって、のどの違和感が出現することがあります。

扁摘後は、麻酔がきれると痛みが出現し、食事を摂りにくくなります。口から食事を摂ってもよい時期、入浴可能な時期、運動してもよい時期などの指示は、症例ごとに各医療施設によって異なります。扁摘を希望される方、手術適応に思い当たられる方など、一度専門の耳鼻咽喉科で、ご相談されるのがよろしいと思います。


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